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ガロンボトルビジネス最前線 【その7】
2008年 日本に適したもの #2  /後編(8月〜12月)

今年は、世界経済に急激な変化が生じました。
経済成長をノルマのように追い求めてきたアメリカの市場主義経済が破綻をきたし、その流れに乗ってきた世界経済が、自壊の瀬戸際まで追いつめられています。経済とは需要と供給の関係で成り立つ行為ですが、不要な需要を無理矢理に喚起させるために、世界中にお金がばらまかれてきました。資源をお金という紙切れに換え、その紙切れで必要以上の消費を促してきたのです。もしも、資源が無限にあるのなら、この欲望を全開させる刺激的な世界は、ずーっと続いたかもしれません。ただ、資源の先行きが見えてしまえば、供給過多にブレーキがかかってしまうことは、これまた自然の成り行きです。

このように、目の前に迫っている世界経済の危機は、需給関係に依拠しています。金融危機はその結果であって、巷間で言われているように、金融危機が発端で実物経済に影響が出ている訳ではありません。まだ、ほとんどの人がこの事実を受け入れようとしていませんが、だからこそ世界経済の混乱は当分の間続くことになるでしょう。原因を見極め、的確な実需に沿った策を生み出せないと、現在の危機は解決しようがないからです。

では、経済は今後どうなっていくのでしょうか?産業革命以降、人類の人口は爆発的な伸びを続けてきました。最初は労働及び生産のために、そして次には消費のために、産めよ!増やせよ!は地球規模で奨励されてきました。そして今、労働及び生産は機械が肩代わりをしてくれ、消費も資源の枯渇及び地球温暖化の制約を受けることとなりました。そのため、増え続けてきた人類の人口と、食料をはじめとする供給のバランスが取りきれない状況に入ってしまったのです。人がだぶつき、浪費経済に反作用を及ぼすことに至ったのです。今回の危機は、よく「百年に一度」と言われていますが、本当はもっと根深いものです。膨大な人口に対する需要と供給が、不自然にねじ曲げられてきたことで、復元力を失うまでに至っています。しかし、脹れ上がった人口はいきなり減りようがないというジレンマが、大きな口を開けて、人類に知恵試しを迫っているのです。
この問題を解決させる唯一の方策は、仕事(労働及び生産)も消費も資源もシェアすることしかありません。それは極めて単純な算数の問題で、それ以外に需給の帳尻を合わせる方策はありません。
例えば、週3日1日5時間を労働時間とし、相応の給料を得、必要不可欠なものを購入して生活を営みます。余った時間は、趣味に使うもよし、本当にやりたかったことに費やすのもいいでしょう。科学技術の進歩のお陰で、私たちは、本当はそのようなゆとりを手にしています。ただ、そのゆとりを、より以上の生産性に振り向けてしまう社会に、私たちは「はめ込まれてきました」。有り余るモノと引き替えに、私たちは自分たちの貴重な時間が奪われていることに気付くこともなく、あくせく働いてきたのです。必要不可欠とは思えないサービス業を創設して、消費の原資を与え、必要以上のモノを買わせる。経済成長を維持するために、その度合いは異常なまでに拡大されてきました。そして、ついにそのシャボン玉は、アメリカで破裂してしまったのです。とは言え、欲望を剥き出しにすることに慣れ切ってしまった私たちが、いきなり謙虚になれるか?と言えば難しいことでしょう。そのため、私たちが上記の解決策に辿り着くのは、当分先のこととなります。
結果的に、経済の停滞はとめどなく続くことになりますが、その間も、人為とは無関係に需給に関する調整は続きます。現象面で言えば、良いものしか売れなくなります。不要なものは淘汰され、実需だけが残ることとなるからです。供給側は立ち行かなくなり、雇用も減りますから、需要に回す原資が途絶え、負のスパイラルは止まらなくなります。
しかしながら、脹れ上がった人口に見合った経済活動は、決して小さなものでは間に合いません。社会的な動物である人間が生きて行くには、相変わらず相応の経済活動が必要なのです。そして、それは年月さえかければ、適正なものになっていくでしょう。その意味で、今回の危機そのものが、適正化への胎動であることは、いずれ歴史が証明することとなります。

今回の危機は良い機会でした。もしも、この危機がなければ、私たちはいきなり地球からの強烈なしっぺ返しを受けていたでしょう。それがどれほど凄惨な自然災害となったかは見当もつきませんが、私たちはその小型版を通して、人類が地球に課してきた負荷の大きさを知ることとなります。また、私たちは人間性の何たるかを考えることも忘れ、欲望だけを追い求める餓鬼に成り果てていたことでしょう。価値観の物差しをお金に置く生き方は、決して楽なものではありませんでした。そして、結果的に残ったのは、言いようのない無力感だけでした。それでも、私たちは、多くの大切な物を犠牲にして、夢遊病者のように欲望を追い求めてきたのです。
水ビジネスに関しても、儲けばかりを追求して、本当に儲けている会社はただの一社もありません。確かに、中身を容器ごと大量生産し、大量廃棄している大企業だけは、水で儲けていました。但し、それは容器の処理に応分の負担をしないで済ませていたからです。その経費分が利益となっただけのことですが、今後はそれが許されなくなります。その分、水をただの儲けで考えているのではない人や企業に、チャンスが訪れます。まともな経済は、まともな人によって支えられていきます。そして、まともな人と経済があって、はじめて社会もまともさを回復していきます。
私たちは、その岐路にいます。そして、未来をどう形作って行くか?は、これを読んで下さっている方々を含め、自分たちが切り開いて行くしかありません。今目の前にある光景は、産業革命以降200年以上の歳月を掛け、私たち人間が「善かれ」と思ってきたやり方の結末ですから、その軌道修正用の教科書も参考書もありません。だからこそ、「今こそ自分たちの出番!」と考える方々の、積極的な参加が必要とされています。

さて、経済危機の分析を踏まえて、2008年ガロンボトルビジネス後編(8〜12月)を記します。
まずは、地産地消のその後です。経済危機に先立ったエネルギーや資材の高騰により、食料品が軒並み値上がりました。弊社の場合では、段ボールの値上げに続き、運送費の値上げに直面しました。地産地消は、それらを見越した動きだったので、タイムリーなものとなりました。そもそも、地球の裏側から食料を輸入した方が安くつくことなどあり得ません。それを、「貿易の自由化」「為替」「金融」等を駆使して、アメリカが無理矢理可能とさせてきました。しかし、人為的に可能とさせてきたことが、矛盾を孕まないはずがありません。結局、産業の空洞化による失業者の増大は、自国の消費欲を衰退させるに至りました。オバマ次期大統領が目指すように、「アメリカは、アメリカ人の職を確保する」ところからやり直すこととなります。そして、アメリカが国内産業保護に向かえば、すべての国がその影響を等しく受けることになります。どの国でも雇用の確保が第一の命題になりますから、海外生産は撤退を迫られ、国内生産が再開されることとなります。
結局、経済活動は、その本質である地産地消に戻ります。国内生産・国内消費は地産地消そのものです。また地域経済の活性化も、地産地消なくしては達成はできません。輸送にかける経費が削減できれば、それをかけたものに対して競争力を持つのは明らかです。そして、その競争力こそが、その商品に関わる人(製造者・流通者・消費者)に利をもたらします。誰か一人が利を独占してしまうビジネスは、長続きできません。経済は日常生活そのもですから、円滑に動くことが使命で、商いは「輪・環・和」を持ってはじめて持続可能性を有することになるのです。求められているのは、自律的な経済です。

昨年11月から始めた地産地消は、下記の成果をあげるに至っています。
1.県内限定価格の定着 水のよい場所での営業ですから、利用者にとっては価格的なメリットが、利用の動機付けとなります。運送会社を介さないことで、輸送用段ボールの使用回数が飛躍的に伸び、経費の削減効果は大です。まだまだ配達エリヤを効果的に組むに至っていないので、 現状、配達は私が受け持っています。営業の伸びは極めてゆっくりですが、十分な手応えを感じています。
2.1からの波及効果ですが、数年前から弊社まで取りに来て東京のお客様にミネラルウォーターを直送している会社に、配送委託を開始しました。運送会社を介さない分、同様に段ボール代が節約できます。弊社の場合、法人様のお客様も多いので配送効率がよく、配送を請け負ってくれた会社にとってもメリットがあります。お客様のところに綺麗な段ボールを据え、運送用の段ボールで運んだものを入れ替えるという手間をかけてもらえています。また、サーバーの不備やお届け先での本数調整などきめ細かな対応をお願いでき、弊社のサービスも格段に充実しました。
3.2からの波及となりますが、栃木県のミネラルウォーターをお客様にお届けしていた茨城県の業者さんが、弊社のミネラルウォーターに鞍替えをしました。栃木のミネラルウォーターの品質的な問題が発端ですが、2の経験で、適切な工場引き渡し価格を設定できれば、地産地消の範囲を広げることができるという事例です。
4.5リットルボトルの実験的販売。6月に完成を見込んでいた5リットルボトルは、まだ量産に至っていません。そこで、こちらの思惑通りのスタートが切れないでいます。漏れの問題が解消できないことが、ボトル屋さんを躊躇させてきました。しかし、プッシュオンタイプのキャップである以上 、漏れを完璧に封じ込めることはできません。程度問題の折り合いがつき、ようやく年内には納入してもらえることとなりました。
こちらは3ガロン2本が入る段ボールに4本入りますが、この間に、配達用ではなく店頭での中身売りに特化させる方針を決めました。初回にボトルのデポジットをいただき、空ボトルを持参すると2回目からは中身の代金だけいただくという方式です。しばらくは、この方式で様子を見るということで、県内3カ所の有力小売店に販売をお願いしています。

サーバー

JBWA(日本ボトルドウォーター協会)とJWSA(日本ウォーターアンドサーバー協会)
12月に入り10日に日本ウォーターアンドサーバー協会の設立説明会が、11日から13日にかけて日本ボトルドウォーター協会主催の展示会が催されました。どちらも日が近かかったので、足を運びました。
以下に、その簡単な報告を記します。
日本ボトルドウォーター協会は、元アクアクララから別れたクリスタルクララ((株)ナック)を主体とした宅配水業界団体です。JBWAはIBWA(インターナショナルボトルドウォーター協会)の下部組織として登録された先発の団体ですが、多くの同業者を抱え込むことができませんでした。そこで、アクアクララ・岩谷物流・ダイオーズという3社に古株の4社を加えたJWSAの動員力に期待をして、設立説明会に参加しました。ただ、期待は見事に外れ、7社で構成する理事の会社以外の参加社は、ほとんどありませんでした。品質の追求を第一義に掲げるという当初の理念も薄れ、「JWSAは、JBWAの対抗上設立されただけのものか?」という疑心が残りました。
協会と名乗る以上、「一体何社あるか?分からないほどに在るガロンボトルの製造会社を束ねていく」という姿勢は不可欠だと思うのですが、集まっている人たちを見ると、初めてお目に掛かる人は数える程度でした。勿論、それは「これからだ」ということなのでしょうが、その限りにおいてJBWAとJWSAの違いが見えてきません。結局、「2つの団体は統合されていくことになるのか?それまでは同業者を束ねていくことも適わないのではないか?」という思いを強くしました。

翌日の11日、東京ビックサイトで行われた日本ボトルドウォーター協会主催の展示会を見に行きました。昔アメリカの展示会に足を運んだことを思えば、良い意味で様変わりをしました。しかし、展示企業の多くは韓国や中国でした。ボトルだけは国産が覇を競うようになってきましたが、国産サーバーは登場していません。日本が設計に関わっているものが、いくつかある程度です。それでも、今までのように皆無ではないので、将来への期待を込め紹介しておきます。
1.(株)北栄が、冷水、温水タンクをスムースに取り外し、洗えるというサーバーを開発しました。
2.(株)エストが、ペルチェを採用した冷温水機を開発しました。
どちらも、設計は日本、製作は中国で行いました。まだ、出来たてのホヤホヤのため評価は控えますが、日本的な発想を具現化してくれたことには素直に拍手を送ります。
会場は「エコプロダクツ2008」と銘打ったイベントの一角で、たいへんな混みようでした。そういう会場に、ガロンボトル関連の商品が並ぶことに、感慨を新たにしました。ただ、会場で前日のJWSAの設立説明会で会った人たちの顔を見るにつけ、「どうせなら、一つの団体で、より大きな展示会を催し、これから参入しようとする人や企業の道標になってくれれば、いいのに。」と思いました。そういう場があれば、今はボトルにとどまっている国産化が、サーバーや洗浄充填機にも及び、加速していくことでしょう。同じ登場人物しか居ない業界では、状況が革新されることは望めません。そして、今のように参入する人たちに道標がないと、新規参入者が次々と迷路に迷い込み消耗して行ってしまいます。業界団体の在り方として、「政治力」ではなく、「創造的な求心力」を発揮してもらえないか?と願うものです。

洗浄充填機

JWSAとJBWAでそこに集う人たちと会い、弊社が創った洗浄充填機の意義を再認識しました。大きな企業が導入した外国製の洗浄充填機も、洗浄能力に於いては子供だまし的なもので、今回も「それをカバーするために、洗浄機だけを導入できないか」という声を聞きました。元々、日本とアメリカでは、製造水に関して製造方法も違えば、レギュレーション(規則)も違います。ですから、同じ機械で洗浄充填をしてしまうと、問題は必然的に生じてしまいます。アメリカ製の機械では、ボトルの洗浄が不十分で、そこに製造水を詰めれば、容易く異物混入という事態を招いてしまうのです。それは、製造設備がクリーンルーム内に設置されていても起こります。回収したボトル内部に僅かでも埃塵が残されていた場合に、アメリカの機械では取りきれないことがあるのです。
また、イタリア製の高価な洗浄充填プラントを設備した工場で作った製品から、カビが生じたケースもありました。洗浄殺菌したボトルに製造水を充填する前に、そのプラントではボトルにエアーを吹いて乾燥させる工程があります。そのエアーの清浄度の問題で、逆にカビ菌を吹きかけることになってしまったのです。その問題は、エアーの配管とエアフィルターを管理していれば、生じなかったことでしょう。但し、余りに知識のない人たちが全自動機を使うと、容易く起こしてしまう恐い事例です。
元A社に居た人が「自分が飲料製造会社の一員であると考えたことはないし、周りの人でそう考えている人も居なかった」と述懐しているのを聞きました。とても残念なことですが、そういう人たちが多く居るのが、この業界の実情です。「RO水」を安心安全と銘打って売っていることから生じた本心が、正直に出てしまった言葉なのでしょう。しかし、それではいつまで経ってもお客様の心を掴めないのは、自明です。今までは、「製造方法にまで踏み込むのはよそう」と考えてきました。後発の人たちに洗浄充填機を買っていただくことで、日本のガロンボトルビジネスの質の向上に寄与できると考えてきたからです。しかし、今は濾過ユニットを含む製造プラントとして、洗浄充填機を販売していきたいと、考えを改めました。
日本の文化は、日本の水に育まれてきました。混乱する世界の中で、私たちは自分たちが拠って立つ確かな場の再確認と再構築を迫られています。汚してしまった水を安心安全なものに変える手品ではなく、有史以来飲み続けて来た天然水を、求める人に供給したい。その初心を貫くために、もう少し声高に、自分が積んできた経験を伝えていきたいと思うに至っています。

劇的な変化が起こった年でした。しかし、全く予兆なしに変化が起こったわけではありませんでした。その意味で、来年はもっと厳しい変化が待ち受けています。しかし、それを「まともになる」「よくなる」兆しと受け止められない限り、事態はもっと悪化します。目を凝らせば「実需」は膨大にあり、良いモノを作る限り、それを必要としている人も大勢居ます。ただ、良いモノを作るということは、一朝一夕ではできません。気持ちだけでも不十分で、スキルを積む時間も当然ながら、必要です。そのための水先案内人を自任しています。
お読みいただいて感じるものがあったら、遠慮なく何でもお問い合わせ下さい。


−ガロンボトルビジネス2008 後編(8月〜12月)−終わり




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