戻る


ガロンボトルビジネス最前線 【その3】
2005年 ガロンボトルビジネス最前線

2005年の流れと総括

2004年11月4日に(株)アクアクララが民事再生法を大阪地裁に申請し、同日保全命令を受けました。そのため、2005年の流れは、その大型倒産の影響を大きく受ける事となりました。このアクアクララの倒産の原因は、今後のガロンボトルビジネスに関わることですから、是非究明しておかなければなりません。しかし、残念ながら倒産から1年が経っても、業界に関わる人達の間で、その究明がなされている風はありません。
そこで、この件に関する私の考えをまとめることとしました。

ある大型倒産の要因

1.知識不足
2000年に、三井物産との資本および業務提携によりスタートした会社が、5年も経たずに倒産してしまいました。その一番の要因は、それを展開しようとしていた人達の知識不足に集約できます。全国展開を狙ったアクアクララの事業は、アクアプラントと命名されたRO水製造工場の設立をフランチャイジャーに求めました。ここで使われる洗浄充填機は、三井物産が輸入したアメリカ製です。但し、機械は同じ会社のものではなく2転3転し、中途で粗悪品を供給されたアクアプラントもありました。そのことでも推し量れるように、アメリカ製の機械に関しての知識は大雑把なもので、それはFC本部が提供すべきノウハウと呼べる物だったのかは疑問でした。
また、指定の冷温水器も粗悪な物で、その品質の悪さが顧客獲得の足枷となったことは否めません。

2.向上心の不足
知識不足と同義という部分もありますが、本部の知識不足は当然の帰結として、フランチャイジャーの向上心の不足を招きました。RO処理水は、日本ではミネラルウォーターとは名乗れないことになっています。それを承知の上で、大企業と提携した会社が、RO処理水をミネラルウォーターと称して消費者に売り込みました。その詐欺まがいのやり方に、消費者を蔑ろにした企業の在り方が端的に現れていました。よいものを正直に消費者にお届けするという理念なしに、それがよりよい物を目指せる道理がありません。本部の作った筋書きに乗り、本部の名を持って商品を売ることだけに専念することがまかり通ってしまったのです。

3.システムの問題
手元に、株式会社アクアクララと三井物産株式会社が連名で配布した、「製造・宅配事業及びアクアプラント設立のご提案」が残っています。「早い者勝ち」とか「ドミナント型利権ビジネス」といった文字が踊る中、アクアプランター開業に必要な資金の合計は9千8百万円と記述されています。そして、この資金は全てパッケージリースで行うとして、その月額は148万円であると記されています。また、その支払いは、ご丁寧にも非現実的な顧客獲得シミュレーションを持って帳尻合わせがされているのです。正直なところ、それだけの顧客獲得が現実的でないことは、この業界にいれば見えてしまうのですが、大企業の看板に釣られて一攫千金を狙う人々には見えません。この商法は、成長著しいとされるミネラルウォーター産業を餌にしたもので、もともとエンドユーザーを度外視したところで考案された机上のビジネスだったと言えます。「水商売は儲かる」と考える人々をお客に取り込む外れのない商売に、大企業が片棒を担いだのです。

4.計画的倒産?
そのため、これはいずれ計画倒産することを前提にしているのではないか?という噂が囁かれていました。「火のないところに煙は立たない」と言われますが、アクアプランター開業資金の高額さと裏付けのない顧客獲得計算を見るに付け、灰色の噂は濃さを増すばかりと言えるでしょう。

アクアクララの後釜には、レモンガスグループというガス屋さんが納まりました。地域に配送網を有するLPガス業界が、ガロンボトルビジネスに組織的に参画してきていることは以前に触れました。レモンガスグループは業界大手で、関東・九州で約60万世帯に家庭用LPガスを供給している会社です。
とりあえず、新会社への移行は無難に済んだようですが、5年という短い間で駆け抜けた
企業の残した爪跡は、決して小さなものではありませんでした。多くの同業各社が、アクアクララと競合しました。そして、その顧客獲得競争の中で、アクアクララが持ち出したサーバーの無償提供と価格の引き下げは、今でも残された競合相手にボディーブローのように効いています。適切な競争原理が働いての価格引き下げは、市場主義社会では当然のことで歓迎すべき事柄です。ただ、未成熟な業界が、お客様の信頼を得るだけの経験とノウハウの蓄積をする以前に価格競争に晒されるということは、好ましいことではありません。また、水道水を原水とするボトルドウォーターと天然水を源水とするミネラルウォーターが、価格競争をさせられるという不合理も生み出してしまいました。

アクアクララは、エンドユーザーよりも水商売を志す人を対象にする商売を展開しました。本部の興味は、水商売を志す人を切らさないようにすることに置かれていたのです。そのために、本部が作成した顧客獲得シミュレーションを表面的に確保することが至上とされました。本部の顧客獲得シミュレーションは客数1,000から始まっています。水商売を志す人は、弊社にも訪れます。その方達は決まって「100件くらいの顧客はすぐにでも集められる」と豪語します。そこで私は万馬券の話をします。「万馬券というのは、100倍の配当金のことを指しますが、それを実際に手にすることは稀です。その稀な数字を商売に当てはめてしまうのは無謀ですが、その考えは商売を始める人に甘美な誘惑として付きまといます。仮に100人の人を組織できるなら、水でなくとも商売になります。毎回万馬券を当てられるような商売があるのなら、誰だって始めていますよ。」
アクアクララ本部の話は、その10倍がスタート地点に据えられていました。そして、アクアプランターという製造プラントをスタートさせるに9千8百万円の資金を投じた企業は、いきなり1,000件というとてつもない壁を超えることを求められたのです。フランチャイズに参加する人達も、後になればなるほどシミュレーションの非現実性を知ることとなりました。しかし、それが外部に漏れると、新規参入者は当然減ってしまいます。そこで、苦肉の策としてサーバーの無償提供と価格の引き下げによる顧客獲得作戦は遂行されたのでしょう。アクアクララは、63件のアクアプランターに、公称10万件のお客様がいるとされていました。10万件という数字が掛け値なしのものだとすると、1件のプランターに平均1,587件の顧客がいる計算になります。ただ、首都圏や近畿圏を中心に1万件以上顧客のいるプランターがあるとすれば、平均に覚束ないアクアプランターの数はどれほどあったのでしょうか。

レモンガスグループの中核であるカマタは、サーバーレンタル料を毎月1,000円とし、確実なメンテナンスを行える体制を既に作り上げました。力のあるアクアプランターはサーバー料無料が引き起こす無秩序と結果的なサービスの低下から抜け出し、サーバーに関するきちんとしたサービスを打ち出すに至っています。これが、アクアクララの倒産から私達が学ぶべき一番価値のある教訓だったと言えるでしょう。このビジネスがサーバーの存在抜きには発展のしようがないならば、きちんとしたサーバーのアフターサービス体制を整えない限り、パイが広がらないことは自明です。ただ、全てのアクアクララが同様な観点に立てていないように、業界他社の多くもサーバー無償という自縛から抜け出ることができていません。アクアクララの大型倒産を目の当たりにしながら、相変わらずこの業界は未熟な人達の新規参入によってその活況が支えられています。当分は、多くの失敗を糧にしながら徐々に力をつけていくしか方法はないのでしょうか。尽きることのない新規参入によって、経験や見識を備えた人達も参加してきたとは言え、簡単な道理を理解してもらうことは何故かとても難しいことです。

サーバー自体の仕入れ価格が仮に安くとも、メンテナンスには経費や手間がかかります。仕入れ価格も含め、それをミネラルウォーター代金で賄えばよいと考えてしまえるほど、サーバーにかけるべき経費は小さいものではありません。それをミネラルウォーター代金で賄おうとすれば、サービスの質を落とすかミネラルウォーターの利益を圧縮するか二者択一を迫られることとなります。それだけガロンボトルビジネスで、サーバーとミネラルウォーターは切っても切れない関係に入りました。そして、この関係は発展こそあれ、後退することはありません。
そのことを、多くの同業者が理解してくれることを切に望みます。

ここでアクアクララの話を離れて、別な分野での2005年の流れに触れておきます。
国産3ガロンボトルの普及が加速してきました。アメリカからの輸入に頼っていた時期は5ガロンが中心でしたが、日本人に適した大きさとして3ガロンが主体となってきました。アクアクララや岩谷産業などが、挙って3ガロン国産オリジナルボトルを作った関係で、「3ガロンボトルは国産」が当たり前のこととなりました。弊社でも型を起こしてオリジナルボトルを作りましたが、どなたでも使える汎用性のある商品として開発をしました。この間の原油高のため材料費が高騰しましたが、小口での購入も可能にしているため、輸入ボトルと比べての割安感は健在です。現時点では汎用品と呼べるものは、弊社以外での取り扱いがありませんが、アクアクララが使用しているボトルを型代なしに買い求めることが出来るなど間口は広がりつつあります。


国産洗浄充填機がいよいよ登場しました。時間90本の製造が出来る半自動洗浄充填機です。以前にも触れましたが、これまでは、洗浄充填機についてはアメリカ製のものに負うところが大でした。それも7年程前までからは、それまであった半自動機が姿を消し、全てが全自動機となってしまったため、故障も多く、また故障時には大変な苦労を背負い込むこととなってしまいました。価格も当然の事ながら高くなり、扱いもたいへんということが、ガロンボトルミネラルウォーター製造の新規参入の足枷となっていました。
そこで、弊社は国産の半自動洗浄充填機の開発を目指しました。全自動機であれ、半自動機であれ、最初に人の手を使ってボトルを機械にセットしなくてはなりません。その意味で、一人の人間が常時機械の前にいなければならない点では同じ事になります。その人の役目としては、機械にボトルを委ねる前の最終のチェックがありますが、それとボトルのセットだけで人を配置せねばならないとすれば、合理的とは言えません。全自動と半自動の違いは、洗浄したボトルを「取り上げて、充填機にセットし、キャップをする」という部分を人手でやるか機械に任せるかということですが、その一連の仕事は機械の前に居る人が十分にこなせるものです。つまり、いずれにせよ必要な人員を、半分遊ばせるために高く壊れやすい機械を購入するというのでは、非効率この上ない事になってしまいます。

弊社の開発した半自動洗浄充填機は、スタートアップ機としての持ち味が出せるように低価格であることを、設計の中心課題に据えました。アクアクララがアクアプランター向けに用意したプラント設備は5300万円でしたが、製造本数は18,000本を上限の目安としていました。弊社のプラント設備は水処理設備を含めても1,000万円ほどで、洗浄充填機単体では800万円です。製造本数はBPHを90本に高めたので、1日7時間の操業、月25日の稼働で15,750本をこなすことが出来ます。
新規参入を志す人は、是非この合理性の違いに着目して下さい。このビジネスは皆さんが考えるほど容易に顧客を得られる商売ではありません。ただ、新規の顧客網を自らで開拓しなければならない点で、大企業とも同じ土俵上で同じ戦いが挑めるという利点があります。しかし、それだけに必要な顧客を得るためには相応の時間がかかります。それを克服できるだけの合理性と運転資金の調達が計画できなければなりません。5300万円を投じて18,000本の製造に漕ぎ着けるのと、1000万円で15,750本に辿り着くのとどちらが効率的かは明らかでしょう。

洗浄充填機自体の性能に関しては、ボトル洗浄殺菌能力の増加に最大の眼目を置きました。
ボトルは牛乳瓶のように繰り返し使用しますから、ボトルの洗浄殺菌は確実に行われなければなりません。しかし、アメリカ製の洗浄充填機はどれも洗浄能力が低く、人間による予備洗いをしないとボトル内の埃等が十分には取り切れません。アメリカ製洗浄機にはジェットバルブが据え付けられているのですが、逆さまに置かれたボトルの入り口から直線的に吹き上げる水流は、ボトルの底をヒットして側面を流すだけのお粗末なものです。機械によっては、ボトルを回転させるといった工夫をしているものもありますが、十分な洗浄力を発揮出来ているものはありません。弊社の洗浄機は、ジェットバルブ自体をボトル内に挿入し、回転するバルブから広角に水流を放出させるため、ボトル内を隈無く直接的にヒットさせるように設計されています。
また、部品には出来るだけ汎用性のあるものを使用し、そのことによって機械の価格を押し下げることと、部品交換が容易にできることを心がけました。

以前にもお話しした通り、国産洗浄充填機の完成を機に、弊社ではガロンボトルビジネスを志す人に研修の場を提供します。ビジネスを開始するためには、知識と経験が不可欠です。まったくの見よう見まねでは、不必要なお金を無駄に投じることになってしまいます。勿論そういう経過を通して、知識や経験を積んでいくことの重要性を否定するつもりは毛頭ありません。ただ、扱うものが食品であるという観点からすれば、実際に始める前に学んで置かねばならない事柄があります。それを後回しにしたり、或いは資金不足から端折ってしまっては消費者の支持は得られません。
工場には機械が不可欠です。その機械を闇雲に購入するのではなく、実際に自分で使用し、機械の能力を見定めることが重要だと私達は考えています。そして、それを正しく使用し、自分達の手の内に入れ、きちんとしたメンテナンスを講じていくことが必要です。
3ガロンボトルはミネラルウォーターを入れると12kgと重いものですが、それを1日に何百本と扱うことになります。ですから、ちょっと見スマートに見えるこの商売も、実はかなりの体力を要する力仕事です。それを軽減させるためのオリジナルボトルラック等もご覧いただけます。アメリカ式のボトル横置きタイプのラックではなく、製造したボトルをローラーで移動させ、直接収められるようボトル縦置き式のラックです。横置きのものはボトルを持ち上げないとラックに収められませんが、縦置きであれば手で押すだけでボトルをラックに収めることができます。容器が大きいためにストックスペースを予め確保しておかなければなりませんが、とは言え、最初から大きな工場は必要ありません。小さく始めて、大きく展開することが重要で、そのためには、仕事の流れを理解し、コツを覚えることが必要です。
勿論実際に事業を展開した場合は、その人や企業が独立して行うことなので加盟金などは必要ありません。実地に仕事をしてみて、自分の思惑との違いを見定めてみるための研修と考えてください。そこで、萎えるもよし、突き進むための決意を固めるも良し。転ばぬ先の杖として、利用してもらうことが研修の主旨です。但し、無料の研修ですから、手取り足取り教えるものではありません。期間に関しての制約はありませんし、宿や食事などは自費となります。
研修を終えて、もし機械等を購入していただく場合は、新たに弊社が必要と考えるだけの再研修を受けていただく可能性もあります。また、求めに応じて、顧客獲得につながる営業活動についても一緒に考えさせていただくかもしれません。

このビジネスは配送コストの点から、本来地域密着型のビジネスです。アメリカでは、各都市にいくつかのガロンボトルのミネラルウォーター会社が共存しています。大会社のみではなく、ファミリー規模の会社でも経営規模にマッチするだけのお客様を確保できれば、商売を成り立たせることができます。確かに、商売敵が林立するようであれば、自らのテリトリーが犯されることも生じるかも知れません。ただ、黎明期にある日本のガロンボトルビジネスが、本当の意味での商売敵を得るのはまだまだ先のことです。天然水の供給会社が増え、それが地域密着の特性を生かして合理的な配送を組めるようになれば、RO処理水はミネラルウォーター市場から駆逐されていくでしょう。水道水を浄水している処理水が、お金を出して得るようなものでないことは自明です。それはエーコープ等で行われているように、無料で手に入れることが相応しいものとなるでしょう。その意味で、今先行している中規模企業の多くは、いずれ競合相手ではなくなります。私達はその時を見越して、このガロンボトルビジネスを健全に成長させていくことに尽力したいと考えています。


完  (2005年12月7日)

【その4】へ

戻る

Copyright(C) 2006 EA,Inc.