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ガロンボトルビジネス最前線 【その2】
2004年 歴史と動向 そして歩むべき道・・・

私たちが16年前にこのガロンボトルビジネスを始めた時には、この業界には「水源水」という1社しかありませんでした。そして、私たちは2番手としてこのビジネスに参入を果たしたのですが、後から確認するとほぼ同時期に数社がやはりこのビジネスを開始していました。それ以来の10年間は、私たち同様の小規模な会社の参入はありましたが、個々がそれぞれにミネラルウォーターの前年比110〜120%増という右肩上がりの状況を享受しながら、市場は比較的穏やかに推移しました。この間、九州・中国地方を中心に韓国製の冷温水器が出回りはじめ、それがガロンボトルビジネスをミネラルウォーターの表舞台へ進出させる素地を形成してきました。またサントリーやユニマットといった大手はバックインボックスではありましたが、人々に冷温水器を認知させる役割を果たすこととなりました。

そして、2000年にユニマットのバックインボックスでの宅配を追う形でダイオーズが始めた宅配事業が、ガロンボトルビジネスの第2章を形成する契機となりました。ダイオーズはオフィスコーヒーサービス(OCS)の会社ですが、ガロンボトルビジネスをRO(逆浸透膜浄水方式)でスタートさせました。ユニマットもダイオーズも共にオフィスコーヒー市場の活性化と、また既存のシステムを活用できる強みを大型容器と冷温水器を使用する宅配事業に見い出したのです。
ユニマットがバックインボックス(ポリエチレン製薄肉容器をダンボールで外装したもの)を採用した理由は、サントリーに準ずるものですが、菌対策に主眼が置かれています。大きな企業ほど、製品が及ぼす社会的な影響には過敏で、それがミネラルウォーターをバックインボックスに詰めて宅配するといった世界には例がない形を産み出しました。美しく透明な液体をわざわざ段ボールに詰めて見えなくさせるといった無粋な手法が、大型容器による宅配事業を停滞させたことを否定する人はいないでしょう。サントリーにせよ、ユニマットにせよ、結局大きな流れを作り出すことは出来ませんでした。そして、ユニマットは現在バックインボックスからガロンボトルへの移行を検討していると聞きます。

ダイオーズは、現地法人・ダイオーズU.S.Aを設立して、アメリカでもオフィスコーヒーサービスに進出した関係で、ガロンボトルビジネスではアメリカの形をそのまま日本に持ち込みました。当時アメリカではROを使ったガロンボトル用自動販売機が登場するなど、ROが脚光を浴びていました。そして、大都市を主な市場とするオフィスコーヒーサービスにとっては、水道水を源水とできるRO処理水は、物流面でもコストの面でも優位性を持てる格好の商材という判断があったのでしょう。企画の最終段階では弊社にも社長が直々に足を運び、程なく彼らは弊社が使用しているものと全く同じボトルで価格も同じRO処理水を売り出し始めました。全国紙の見開きを使ったダイオーズの宣伝広告は、多くの人にガロンボトルビジネスの存在を告知する効果をもたらしました。それは消費者向けだけでなく、「水は儲かる」と考える多くの参入社を刺激するという効果も果たしました。前後関係までは定かでありませんが、同じく2000年には中京医薬品・アクアクララもRO処理水で旗揚げをし、ガロンボトルビジネスは一挙に全国区を目指した展開を見せることになったのです。

もともと在来の商品ではないものが、その国で定着するまでには、多くの曲折を辿ります。ペットボトルのミネラルウォーターも、加熱処理以外は製造手段が認めらていなかった時期は別として、ヨーロッパから無殺菌のものが輸入されるに至って大きな変遷を辿りました。そして、その余波は今なお続き、ミネラルウォーターの概念は未だ定まっていないのが実状です。ガロンボトルビジネスがバックインボックスの脇道へ入り込んでしまったり、RO処理水へ大きく振れてしまうのは、ミネラルウォーターの概念が不明瞭だからこそ起きてしまう事柄なのです。
厚生省の定めるミネラルウォーターの分類中、一番ランクが上とイメージさせるナチュラルミネラルウォーターの処理方法を、「ろ過、沈殿及び加熱殺菌に限る」としているのは、日本のミネラルウォーターの大半が加熱処理だということと無縁ではありません。フランスでは体にとって有用であることが立証できないと「ミネラルウォーター」という称号を使えませんでした。それが、ヨーロッパの水がEC指令で統一される過程で「薬効効果」が「健康に好適」という言葉に変わりこそしましたが、殺菌をしないことを含め人が手を加えないことは変わらぬ前提として生き続けています。このミネラルウォーターに関する見解の相違は、国際的なミネラルウォーターの規格を定めるCODEXでも激しい論戦が繰り広げられました。結果的には、1997年6月にヨーロッパの規格が世界規格として採択されましたが、日本側の主張は、EU側の狭義なミネラルウォーターを受け入れてしまうと、日本市場に深く浸透している名称の変更せざるを得なくなり、それは市場の混乱を招くというものでした。容器詰め飲料水のほとんど全てをミネラルウォーターと呼ぶ日本で、EU案を受け入れがたいと言う事情は分からないではありませんが、それがミネラルウォーターの概念を不明瞭にしてしまっている事は否めません。(*1)

第一次のミネラルウォーターの隆盛は、1967年頃からのウイスキーの水割り用の流行が引き金でした。そして、第二次のブームは1983年にハウス食品が「カレーを美味しく食べるには美味しい水を」と「六甲のおいしい水」を発売したことに端を発したと言われます。1989〜1990年にかけて老舗のサントリーやキリンビバレッジも家庭用の分野に進出し、現在に至っています。1985年には水源水が、そして私たちが1988年にはガロンボトルで市場に参入してますが、全体的に見てもとても若い業界であることがお分かりいただけるでしょう。日本に於けるミネラルウォーターの市場がまだまだ伸びると考えられているのは、実はこの業界の歴史の浅さに由来しているのです。ガロンボトルビジネスはその中でも未成熟な分野ですが、大企業がバックインボックスの金縛りにあっているのを後目に、中企業がRO処理水で全国展開を仕掛け始めました。それによってガロンボトル市場が活気を帯びはじめた事は間違いありませんが、それがそのまま消費者に受け入れられていくものとは思えません。何故なら、あのサントリーでさえ、加熱処理でなくハウス食品や弊社同様フィルターによる除菌を水処理に取り入れ、天然水の持ち味を損なわないおいしい水の製造に乗り出しました。それは消費者のニーズが「天然・自然及び健康志向」に向かっているからに他なりません。

全ての商品は多くの試行錯誤を経て、私たちの生活に定着していきます。特に外来のものは、生活習慣の違いを乗り越えなければ定着のしようがありませんから、定着には時間がかかります。そして、それを紹介し広めようとする人たちの思惑にも大きく左右されるため、定着への軌跡は直線を描けません。但し、時間をかけさえすれば、市場がその道筋をつけていくことには変わりがありません。日本に於けるミネラルウォーターのルーツは、温泉水や鉱泉水、茶の湯の水、酒造りの水ですが、当然の事ながらそれらは全て天然水です。ですから、ミネラルウォーターが定着するにつれ、消費者が日本の天然水を持ち味をそのままに飲みたいと求めるのは当然の成り行きといえます。サントリーが製造方法を改めた要因はそこにありました。ガロンボトルのミネラルウォーターもそれがミネラルウォーターである限りにおいて、天然水を標榜していくことは間違いないことでしょう。

とは言え、RO各社が展開するガロンボトルビジネスは、ガロンボトルによる宅配システムの利便性を世に問うという点では多大な貢献を果たしてくれています。そして、彼らの企業活動は、これからガロンボトルビジネスに参入しようとする人たちにとっては、とてもやりやすい環境を用意してくれる事ともなりました。私たちが参入した時点では、ほとんど全てを直輸入に頼らざるを得なかった品々が国内調達出来るばかりでなく、続々と国産品が登場してきたのです。冷温水器を除くと、この1〜2年という短い期間で、ボトルもキャップも製造機械も相次いで国産がデビューしてきました。実はサーバーに関しても、今まで国産が皆無だったわけではありません。ヨコハマゴムの子会社だった時分の潟Rムフォが国産のサーバーを作り、ボトルも10gと15gといった日本仕様のものをいち早く国産で作りました。ただ取り組みが早過ぎたために、コスト面での負担を一身に背負い込むこととなってしまいました。以来、韓国製のサーバーが成長したこともあって、日本でサーバーを作ろうという動きは表面化してきません。(*2)

ボトルの国産化は長い間待ち望まれていたことですが、こちらは願ってもない形で実現することとなりました。もともと日精エー・エス・ビー機械株式会社が作ったブロー成形機械が輸出されて、現地(インドネシア・タイ等々)では、その機械で5ガロンボトルの製造が行われていました。アメリカ製のボトルしか市場にない時分は、キャップをかぶせるボトルの首の部分がとてもお粗末な出来でした。それに比して日精エー・エス・ビーの機械で作られたボトルは精密で完成度の高いものだったので、私たちはそれをインドネシアから輸入するといった時期もありました。が、程なくして、ボトルの首の部分は日精エー・エス・ビーのものに似せたものが世界標準となったお陰でアメリカ製のボトルも精度を増しました。それでも、アメリカから輸入するボトルには、不良品や製造日の古いものがあったり、バリを取り除くこともないままのものが手元に届き、国産品の登場が待たれていました。その間、ボトルの生産は韓国や中国でも開始され、それが日本にも輸入されるようになりました。
国産のボトルはまだデビューしたばかりで、現時点では先行各社のオリジナルボトルを生産するという形で行われています。まだ、誰でも購入して使えるといった汎用性のある商品はないので、国産品を手に入れるためには、型をおこす必要があります。その型代は200万円〜400万円と言われていますから、今の時点ではおいそれと手が出せるものではありません。但し、いずれ型代を支払わずとも使用できるものが製品化されることは間違いないでしょう。問題は価格ですが、型代を除いたものはどうやらアメリカ製のものより安くなりそうです。今までは、20フィートコンテナ一杯に輸入をしても、3ガロンで1200本しか運べず、海上及び国内輸送にかかる経費はたいへんなものでした。それにも関わらず、ガロンボトルに関わる全ての商品は、輸入品の方が運賃をかけても安いというのが今までの常識でした。それが、どういうわけかアメリカ国内での価格よりも国産のボトルの方が安くなるというのです。これは珍事ではありますが、ガロンボトルビジネスに携わる人にとっては大変な朗報に違いありません。

ペットボトルの価格に変動がないままにガロンボトルの価格が安くなるということは、ガロンボトルビジネスがミネラルウォーター市場で優位性を高めることにつながるのは言うまでもありません。また、運送会社を通じて全国へ宅配している弊社のような工場では、仮に一本だけを送る場合なら、ボトル代の方が運賃よりも安いという逆転現象が起こります。つまり、サンプルで1本を送り成約をいただかない場合、そのボトルを回収しない方が安上がりにつくということが生じてきます。また、ボトル代が高かったために売りっきりという手法が取れなかったわけですが、これからはバックインボックスのようにワンウェイの販売やお土産屋さんでの販売という形態も出てくるわけで販売チャンネルも増えます。そして、なによりもボトルにかかるコストの削減は、直接的に収益の向上ないしは価格の引き下げを可能にする楽しみな切り札といえます。
ボトルの国産化に伴い、キャップの国産化も始まりました。これに関しては今のところ型代を消化するという必要性から、韓国から輸入するものより多少割高です。が、今の勢いを持ってすれば、いずれ早い時期に同程度の価格に収まっていくことが期待できます。

さて、最後にボトルの洗浄充填機の話をしましょう。
洗浄充填機に関しては、今までアメリカのスティールヘッド・キャップスナップ・ユニバーサルアクアといった各社から、それぞれのミネラルウォーター製造会社が独自に輸入をしていました。私たちもスティールヘッド社から独自に輸入をしましたが、外国の機械を手の内に入れて使いこなすということは容易な事ではありません。アメリカのミネラルウォーターのもっともポピュラーな製造方法はオゾン処理のため、洗浄充填機はその想定の上に作られています。オゾン処理をした水は、瓶詰めした後でもはしばらく殺菌性を保つため、仮にボトルの殺菌が不十分でも瓶詰めした製造水が補うといった働きをします。そこで、オゾン処理以外の製造方法を採る場合は、ボトルの洗浄殺菌に確実な殺菌工程を組み入れる必要性が生じます。私たちは、その工程に蒸気殺菌を組み入れましたが、洗浄工程に関しても人間による予備洗いを取り入れ、洗浄殺菌工程をより確実なものにしています。
アメリカ製の洗浄充填機に関しては、設置の段階でも多くの苦労を抱え込むことになりますが、問題は故障に対する対応です。機械ものですから、必ず故障はします。私たちは、たいへん幸運なことに「プロジェクトX」に出てくるような、叩き上げの技術者との出会いがありました。その人は鈴木茂穂さんで今は定年退職されていますが、当時上毛電業の施設部長を務めていた方です。どうにか機械の設置はしたものの、何かあったら打つ手がないと必死でメンテナンスのできる人を捜していた私たちに、上毛電業の社長さんが引き合わせて下さったのが鈴木さんでした。この16年の間幾度となく故障を訴える機械を、事も無げに、或いは知恵を振り絞ってその都度機能回復させてきたのは、全て鈴木さんの並はずれた能力によるものでした。この間同じ問題を抱えた同業他社から、「うちの機械も見てくれないか」というオファーもありましたが、鈴木さんはお年を理由に首を縦に振ることはありませんでした。
勿論適切なメンテナンスを施し、徐々に機械を手の内に入れていけば、自分たちでも対応ができないと言うことはないでしょうが、それまで故障しないで済むという保証はありません。そこで、私たちが浴したような幸運に恵まれない工場では、故障の不安を抱えながら操業をするという心許ない状況を余儀なくされてきました。

弊社が製作する洗浄充填機は、私たちがこの間に培ったノウハウを注ぎ込み、アメリカ製のものとは全く違う発想から設計した、時間80本の製造能力を持つ洗浄充填機です。機械を作る人は、それを使ってミネラルウォーターを製造するわけではありませんから、機械の使い勝手に精通しているわけではありません。その意味で製造を知り尽くした現場の人間が設計した機械には、一味も二味も違った設計思想が反映されています。勿論、マニュアルも部品も全て日本製で、故障時には直ぐ技術者が駆けつけることが出来ます。後は1号機の出来次第なので、乞う!ご期待。

さて、機械の製造能力について少し触れます。何故私たちが製作するものが時間80本の製造能力かということに関連しますが、この機械を1日7時間稼働させると日産で560本、1ヶ月25日間で計算すると、月産14000本となります。3ガロンボトルのミネラルウォータ−の価格が一番安くて1200円ですから、この製造機械で月商1680万円年商にして2億160万円というビジネスが可能となってしまうのです。勿論、それだけのお客様を獲得することはたいへんなことで、この金額をもって参入者を煽ろうとしているわけではありません。逆に時間80本の機械ですら、それだけの可能性を持っていることを承知していただきたいのです。このビジネスはボトルが大きいので、商売が軌道に乗るにつれ大きな場所を必要としますが、それを自分の思いこみだけを先行させて、最初から大きくでてしまう傾向を見受けます。しかし、そのことが資本を寝かせる結果となり、経営や経営マインドを苦境に立たせる実例を私たちはいやと言うほど見てきています。時間80本の機械というのはアメリカ製を含めても一番小さな機械の部類ですが、スタートアップとしては最適で、消費者のニーズさえ掴めれば、十分な利益を生み出し得るものだということを、是非肝に銘じていただきたいのです。

今まで述べてきたように、多くの指標がガロンボトルビジネスのビジネスチャンスを指し示しています。ただ、だからといって誰でもがこのビジネスに参入して成功を収められるわけではありません。「水は儲かる」と思われがちです。が、正確には掴めませんが、日本には既に400社を超えるミネラルウォーター製造会社があります。そのうちの大半がペットボトルのミネラルウォーターの製造をしていますが、サントリーやハウス食品を含む大手9社で全シェアの69.4%を、また準大手を含む28社で全体の89.1%のシェアが握られています(平成7年度の規模別生産実績)。つまり、残りの11%弱のシェアに400社近い企業がひしめき合っているですから、それらの企業で「水は儲かる」と感じているのは、ほとんどないと言っても過言ではないでしょう。
「水は儲かる」というのは神話で、「早い者勝ち」というのはまやかしに過ぎません。どんな商売でもうまくやる人もいれば失敗する人もいます。その違いは、情報を鵜呑みにせず、自分のスタイルを確立するまで、その商売を持ちこたえさせるだけの計画性と根気を持っているかどうかに懸かっています。また、自分のやり方や考え方がどれほど合理性<天の利・地の利・人の利>に裏打ちされているかどうかに懸かっているとも言えます。ミネラルウォーターがもっと市場を拡大させていくことは明かですし、その中でもガロンボトル市場が面白いことは、今まで述べてきたとおりですが、その上に自らの持つ優位性をどれだけプラス出来るかということがキーとなります。例えば、良い水源を持っているという点ではペットボトルの製造者が、ガロンボトルの製造に切り替えるというのは水処理設備とノウハウも既に有しているわけですから、とても合理的でしょう。また、LPガス業界のように顧客と販売システムを併せ持っているところが参入することも合理性に基づいています。実際にLPガス業界が、続々とガロンボトルビジネスに参入を開始しているようです。
そして、最後にポイントとなるのは「良いものを作り供給する」と言う信念です。「儲けたい」という一心で突き進むと、消費者のニーズを見失い、結局は消費者にそっぽを向かれることになります。その意味で、私達はもっとミネラルウォーター業界全体の流れに眼を向けながら、ガロンボトルのミネラルウォーターの品質の向上に努めていかなければならないでしょう。

私たちは、国産の洗浄充填機を作り、十分な動作確認や点検を経て、それが自分たちが意図したものとして製品化された時点で、現在の工場をガロンボトルビジネスの研修センターにしていく予定です。ガロンボトルビジネスに興味や意欲を持つ企業や個人に、あらゆるノウハウを必要とする期間無償で供与する研修センターを作るという構想です。
ボトルが国産で安く手に入ることになれば、後は流通コスト次第でガロンボトルのミネラルウォーターの競争力は突出したものになる可能性があります。良い水源の近くにガロンボトルの製造工場が出来、一番近い都市に安定的な供給をすることができれば、流通コストは削減できます。私たちは、「水は儲かる」という神話を出発点とするのではなく、必要とされているものを合理性に基づいて供給することによって、個々の企業が結果的に収益性の高いビジネスを構築できる環境を整えていきたいと考えています。何故なら、それが「水」という最も基本的な食品を扱う業界が、絶対多数の消費者に支持される道だと信ずるからです。歴史の浅いガロンボトルビジネスは、まだ消費者の心を射止めるにいたっていません。しかし、消費者のニーズに耳を傾ける謙虚ささえ持ち続けられれば、ミネラルウォーター業界の地図を大きく塗り替えていくだけの必然性を内に秘めています。それをなし得るのは、決して「一人勝ち」や「早いもの勝ち」の論理ではありません。「水は儲かる」とか「安く供給すれば売れないわけはない」という思惑から「安かろう悪かろう」に走ってしまえば、この業界は迷路に足を踏み入れることになるでしょう。
若い業界だからこそ、「最後には良い商品しか残らない」という事実をきちんと受け止め、長い間に日本が培ってきた品質第一主義を基本に据える必要があるのです。そして、「家で使うなら、ガロンボトルに限る」という評判をいただくためには、流通コストの問題を始め、もっとたくさんの必然性を業界全体で作り上げていかなければなりません。個々の企業が「良いものを作り供給する」という信念に基づいて力をつけていけば、業界は力を得て行きます。そして、それを通してガロンボトルビジネス業界が厚みと信頼を獲得できれば、個々の企業が浴するものは想像を遙かに超えるものとなることでしょう。

私たちは、このようなガロンビジネスを目指しています。



(*1)1990年3月日本の農林水産省が策定したミネラルウォーター類の品質表示ガイドラインによると、ミネラルウォーター類(容器入り飲用水)は、ナチュラルウォーター、ナチュラルミネラルウォーター、ミネラルウォーター、ボトルドウォーターの4つに分類されます。
その内のボトルドウォーターは、1.ろ過、沈殿及び加熱殺菌以外に原水の本来成分を大きく変化させる処理を行ったもの 2.その他、原水が地下水以外の場合 *純水 *蒸留水 *水道水など とされ逆浸透膜ろ過を行った場合の品名はボトルドウォーターであり、ミネラルウォーターという表示ができないことが定められています。

(*2)サントリーも同様に配管内を熱水で殺菌するという機能を持たせた国産サーバーを開発・製作しましたが、韓国製やアメリカ製と比してあまりに高価過ぎて、広く普及するには至りませんでした。




これからのガロンボトルビジネス

サントリーは毎年首都30km圏内に居住し、ミネラルウォーターや天然水を家庭内で飲用した経験のある20〜59歳の男女個人を対象としたミネラルウォーター市場動向調査を行い、その結果をサントリーミネラルウォーターレポートとして公表しています。その最新の平成14年度に実施された調査の中で興味深いものをいくつか紹介しましょう。

(1)◆ふだん「飲み水」として使用しているもの   ◆今後「飲み水」として使用したいもの
      ミネラルウォーター     (97%)        ミネラルウォーター     (96.8%)
      浄水器の水      (52.4%)          浄水器の水          (57.8%)
      水道水         (33.4%)          水道水                   (7%) 
      アルカリ整水器の水  (5.8%)         アルカリ整水器の水  (14.8%)
      海洋深層水        (2.8%)         海洋深層水         (20.2%)

首都圏では水道水を蛇口からそのまま飲むという光景がほとんどなくなり、飲用としては今後とも極端に減らされていくだろうという傾向が浮き彫りにされています。その穴を何が埋めていくのか興味のあるところです。(*)

(2)◆自宅で「ミネラルウォーター」を飲む理由
おいしいから(68%)  水道水がまずいから(50%)  不安がないから(30.2%) 自然・天然の水だから(26%)  健康にいいから(25.2%)  ミネラルが多いから(18.2%)

「ミネラルウォーターの第一要素は日本では”おいしさ”、ヨーロッパでは”薬−治療的な効果のあるもの”、アメリカでは”安全性” この違いはもともと水質に由来するものだろうが、それが各々の食文化の背景となった」とする、全国清涼飲料工業会の技術委員会委員福田正彦氏の説を裏付けています。(*)


(3) ◆「ミネラルウォーター」の用途    ◆今後、「ミネラルウォーター」を使いたい用途
  そのまま飲む水    (97.8%)       そのまま飲む水        (83.6%)
  水割り用の水      (66.8%)        水割り用の水         (63.2%)
  濃縮飲料を薄める水 (50.4%)        濃縮飲料を薄める水   (57.6%)
  製氷用の水        (33.6%)        製氷用の水          (54.2%)
  水出し麦茶などの水      (33%)        水出し麦茶などの水   (61.2%)
  日本茶・コーヒー・紅茶(25.8%)         日本茶・コーヒー・紅茶    (55%)
  乳児用粉ミルク用の水    (23%)        乳児用粉ミルク用の水   (30%)
  離乳食を作る水      (22.4%)         離乳食を作る水       (29.4%)
− − − − − − − − − − − − − − − − − −  − −
    ごはんを炊く水      (12.2%)        ごはんを炊く水        (35.2%)
    煮物・シチュー用      (8.8%)          煮物・シチュー用         (25%)
    味噌汁を作る水        (8.8%)         味噌汁を作る水      (28.6%)


上記の結果を見る限りにおいて、ミネラルウォーターを料理に使いたいという意向は顕著なものがあり、その結果として家庭での利用量は今後相当量増大することが見込まれます。(*印は筆者注)

        
サントリーのミネラルウォーター市場動向調査は10項目の設問を設けていますが、ここではその内の4項目の調査結果を掲載しました。上記の結果はいずれも今後のミネラルウォーター市場を占う意味で示唆に富んだものであることは、お分かりいただけるでしょう。
殊に、今後ミネラルウォーターを使いたい用途という設問の答えで、料理やお茶などに使いたいという意向の高さは特筆すべき点です。今まで飲用(そのまま飲む・水割り用)に依存してきたミネラルウォーターの用途が、料理用にシフトすると使用量は飛躍的に伸びます。そして、その量を家庭で確保するとなると、ペットボトルを重い思いをして持ち帰り、その容器ゴミを処分することは利用者にとってたいへんな負担となりますから、ガロンボトルでの宅配事業の必要性は一挙に高まります。つまり、ガロンボトルビジネスはそれ自体が持つシステムの資質において、今後の消費者のニーズの、直接にして最大の受け皿になり得るということなのです。
これからのガロンボトルビジネスについては、この観点に立って話を進めていきますが、もう少しサントリーミネラルウォーターレポートの解析を続けましょう。

ふだん「飲み水」として使用している水を水道水とした人が33%に対して、今後「飲み水」として使用したい水を水道水とした人が7%へ激減しているのは、重要な変化です。日本人の特性として「赤信号みんなで渡れば怖くない」がありますが、上記の数字の変化には、隣の人につられるようにして、都会の人が一斉に水道水を飲用には使わなくなる可能性を感じてしまいます。そのこと自体は、水道水の在り方を見直すよい機会になるのでしょうけれど、ここでは論じません。ここでは、事の発端と経緯に少しだけ触れておきましょう。

水道水の利便性は「ひねるとじゃー」という言葉で表されたことがあるように、蛇口をひねるだけで、いつでも必要なときに必要な水が得られることにありました。しかし、水道水の劣化や危険性に関しては、何度となく報道や指摘がなされたため、利用者の水道水離れは除々に進行することになりました。ただ、日本の水道の質がどれほど悪くなっても、やはり水道水の持つ圧倒的な利便性に勝ものはなく、当初消費者は浄水器によって自己防衛を果たす道を選びました。しかし、浄水器が高価過ぎたり、浄水器自体が汚染源となってしまったりという現実を経て、浄水器の限界も自明のものとなってしまいました。そういう状況の中で、ミネラルウォーターは着実な浸透を遂げてきましたが、水道水の利便性を凌駕するところまでには至りませんでした。しかし、水道水もおいしく飲むには一回煮沸したり、それを冷ましてから飲むということが常識化してしまったため、長い間誇ってきた利便性にも陰りが出てきました。そんな折、冷温水器は人々の目の前に登場してきました。
冷温水器は、蛇口を押すだけで温水も冷水も思いのまま、しかも出てくるのはおいしい天然水なので、おいしい水を飲むという観点では水道水よりも遙かに便利なものでした。韓国製の廉価な冷温水器が登場しミネラルウォーターの普及と相まって、使ってみたらその利便性に気づいたということだと思います。しかし、相対的な結果であれ、冷温水器の存在が初めて水道水の利便性を超えてしまった意義は小さくありませんでした。そのことによって利便性という最後の牙城を崩された水道水は、首都圏において急速に「飲用」から外されていくという運命を辿り始めたのです。

物には使い勝手という観点があり、それは使ってみなければ理解されません。が、一度使ってみて便利に使えるものだと分かれば、需要は一人歩きを始めます。「飲用」から外されつつある水道水の穴を何が埋めるにせよ、その穴を埋める物は水道水の利便性を超えるという高いハードルを求められました。しかし、それが得られた時、利用者がミネラルウォーターを「飲用」以外にも使いたいと考え始めたのは、当然の成り行きと言えるでしょう。


冷温水器・ウォーターサーバー

ガロンボトルは大きいので給水器抜きでは使い勝手が悪いものです。ただし、サーバーを利用するとなるとスペースが必要で、日本の住宅事情の中では「場所取り」になってしまいます。前述した通り、私たちは陶器製の給水器で営業を開始しましたが、それは冷温水器が高価だったからでした。その冷温水器に安価なものが登場して利用者に利便性を認知していただたことが、これからのガロンボトルビジネスを飛躍させようとしています。

そこで、このガロンボトルビジネスのkeyとなる冷温水器の問題点と課題を整理しておきます。
まず、品質に関してですが、アメリカ製にしろ韓国製にしろ日本人の観点からすると、相当のバラツキがあります。冷温水器の取り扱いに関しては、株式会社北栄がもう既に20年以上の経験がありますが、日本で実績的に北栄と肩を並べるところはありません。北栄の扱う商品は米国オアシス社の製品と韓国ユーオン社のウォーターサーバーですが、流石にアメリカ製のものは韓国製と比して一日の長があるようです。同社はサーバーをエンドユーザーに直売することはなく、水メーカーに卸す形態を取っていますが、全ての商品を厳密にチェックしてから出荷する態勢を整えています。また、メンテナンスに関しても万全の態勢を整えていますから、水メーカーとしてはウォーターサーバーに関しては全く「お任せ」して、ミネラルウォーターの製造販売に専念できます。
また、北栄は、ミネラルウォーターの製造に直接携わっていませんが、立場上多くの水メーカーとの関わりがあります。ですから、全体の利益を考える立場に立ちやすいのでしょうが、新規参入社に対する情報提供を始め様々な活動に、業界のためにという真摯な態度で取り組んでいます。ガロンボトルのミネラルウォーター製造側は、どちらかというと一匹オオカミ的だったり、独立独歩派が多く、ほとんどまとまりがありません。ここで言うまとまりとは、業界の結束とかいう類のものではありません。言い換えれば、業界として目指すべき品質の指針のようなものですが、こういう基本的なものがまだまとまっていません。その意味で、日本に於けるサーバーの草分け的存在である北栄が発信する客観的な情報は、今後ともその必要性を増すことになるでしょう。

また、品質の指針という点では、当然のことながら冷温水器そのものにも必要性が生じてきています。昨今では韓国製のサーバーに加えて中国製のサーバーも登場してきましたが、韓国製でもお粗末な品質のものがあり、特に低価格のものについては全く使い物にならないものもあります。「安いサーバーさえあれば、ガロンボトルのミネラルウォーターが売れないわけがない」と、これらの商品を自力で輸入する人達も後を絶たないようですが、結果的に高い買い物をして処分することもままならないという話をよく聞きます。「安いのだから、駄目なものは新品と交換すればいい」という声も聞かれますが、それは不良率がどれほどのものかを知らない人達の発言で、電気製品に関してハードルの高い日本では、メンテナンスを配慮できない商品は扱うべきではないことを肝に銘ずるべきでしょう。また、自力輸入した冷温水器が、設置した先の事務所でコンセントから出火したケースまでありますから、事はその人達の損得だけに止まるわけではありません。冷温水器が生み出した好機を、不良な冷温水器で潰さないためにも、「安さ」に目を奪われることなく、「品質」本位を貫いていく姿勢が求められます。そして、その「品質」を自らで保証出来ない時点では、しっかりとした品質の指針を持っているところに保証を委ねることが、業界が厚みを増していくために必要だと感じられてなりません。

狭い日本の住宅事情にも関わらず、冷温水器は利便性を評価いただき家庭内での居場所を確保しました。ただ、今のところ韓国製が主なために、正直なところデザイン的には面白味に欠けます。
冷温水器は、毎日の生活に密着するものですから、スリムさや省スペースのことも考慮されるべきでしょうし、もっとデザイン的にも洗練されていく必要性を感じます。熱帯魚の水槽などもそうですが、生活の中にある「水」は、私たちに落ち着きや潤いを もたらしてくれます。ガロンボトルを乗せた冷温水器が居間に置かれる理由の一端もそこにあるとすれば、高品質は当たり前のこととして、よりよいデザインのものが求められていくことは必定です。そして、その要望に答えていくことが、更なるお客様の獲得につながる事は言うまでもありません。



おわりに

サントリーミネラルウォーターレポートには、これからのガロンボトルビジネスが進むべき道が明解に指し示されていました。そして、ガロンボトルビジネスは、そのシステムにおいて今後の消費者のニーズの直接にして最大の受け皿になり得るという話をしました。その意味で私たちは、自分たちでは対処仕切れない程のお客様を得てしまう可能性を有しています。ただ、そのためには、個々の企業がお客様のニーズを正しく読みとり、それに応えていくための不断の努力を重ねていかなければなりません。若い業界だからこそ、しっかりとした品質に対する指針を創り上げ、それをお客様にきちんと指し示していかねばならないからです。
幸いなことに、この業界には新規参入を果たそうとする人達が絶えません。そして、これから参入してくる多くの人達によって、この業界の本当の基盤は形作られていくこととなります。
私たちは、その基盤づくりに寄与するために、このガロンボトルビジネス読本をまとめ一つの情報として公開することとしました。ただ、情報というものはそれ自体が価値を持つものではありません。情報とは「転ばぬ先の杖」に過ぎないものです。本当に重要なことは、その情報を得た人が、それをもとにどれだけ自分自身の独自性を打ち出せるかという一点にかかっているのです。

志を持つ多くの人たちが、この杖を通じてガロンボトルビジネスへの参入を実のあるものにしていただければ、幸いです。

完     (2004年3月27日)

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